LICENSE

幼い頃俺は 
いつも海が好きだった
バラック小屋に4人暮しで 
とても幸せだった
むき出しのプロパンガス 
コールタールの壁 
壊れかけた雨戸
夕暮れの背中 
あの路地口でいつも
おふくろは泣いてた

週末になると 
親父はいつも 
俺をバイクに乗せた
人気のない海岸線に 
親父は腰をおろした
黙ったままタバコをふかし 
ずっと遠くを見てた
生真面目だけの 
自分の人生に 
憤りを感じてた

遮断機が降り 
錆びた線路を
蒸気機関車が走る
踏切を渡ると 
河原が流れ 
繊維工場の煙
回送列車が操縦場へ
入るその前に
駆け足で早く駆け足で早く 
家へ帰った

買い物籠を
さげたおふくろが 
俺の手を引いてゆく
昨日の涙の理由も言わず 
優しく唄っていた
河川づたいに 
大きな影と小さな影が揺れる
子供達の為だけに 
ただ優しく唄ってた

親元を離れ 
戸惑いながら
月日は流れていった
薄汚れた都会のベランダから 
見えない海を眺めてた
俺は初めて 
親父やおふくろを
たまらなく愛した
取ったばかりのカーライセンス
明日 羽田に迎えに行く